母の店は、銘柄牛を売りたいというよりも、日本で何百年も守られてきた和牛飼育の伝統があるから味わえる味を輸入ビーフで育った世代の人たちに知ってもらいたいということで始まった。今は、和牛のおいしさを標榜するお店が増えてきたし。黒毛和牛という言い方や、イチボ、ランプ、ヒレ、などの部位を示して売る人も増えてきた。牛肉なら同じだと思われていたころを思うと感慨深い。

残念なこともある。
和牛の需要が増えてきて、さらに外国人にまで広まってきているのに飼育する人のたちの後継者が少なくなってきていること。
もうひとつがブームに乗って、銘柄牛を名乗りながらも伝統的な飼育で肥育された和牛ではないものも増えていること。

どちらも、ぼくたちに解決できるテーマではないけれど、知らぬ間に引き継いでいることも含めて、母が伝えたかった和牛の食文化というか、和牛と人の暮らしを感じられるような、ひとつの形として和牛のレストランをしていくことはできる。

銘柄や価格に惑わされずに、嘘のない和牛を食べて、自分の舌でハートで感じた味を、おいしいと感じてくれる人のために、母が守ってきた矜持に恥じない和牛ステーキを提供すること、、、これだけが、いつになっても母から引き継いだと言えることだ。

ぼくたちのステーキを食べた人に、「あ、そういえば昔、こんなおいしいステーキを食べたな。おばさんがひとりでやってるお店だった」とか思い出してくれることがあったらうれしい。